トランプ大統領が映す米国

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(photo from NIKKEI電子版ビジュアルデータ)

Make America Great Again!(偉大なアメリカを復活させよう!)

こんなスローガンを掲げたドナルド・トランプがメディアの予想に反してヒラリー・クリントンを破り、次期米大統領に決まった。事前の世論調査ではクリントンが優勢との見方が多かったが、最終的にはスウィングステートと呼ばれる激戦州を獲得したトランプ氏が大接戦を制した。

なぜメディアは読み間違えたのか。トランプの勝利は何を象徴しているのか。

こんな問題意識で改めて米大統領選を読み解いてみたい。

誰がトランプを支持したのか?

まずはこの問いから始めるに当たって、ぜひ押さえておきたいのが米国・ボストン在住のエッセイスト渡辺由佳里さんが書いた”トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実“という記事。キーワードとなる「ヒルビリー」とは田舎者の蔑称。話題となるのはサンフランシスコのITベンチャーで働くJ.D.ヴァンスの半生記を描いた著書だ。

「貧困は家族の伝統だ。祖先は南部の奴隷経済時代には(オーナーではなく)日雇い労働者で、次世代は小作人、その後は炭鉱夫、機械工、工場労働者になった。アメリカ人は彼らのことを、ヒルビリー(田舎者)、レッドネック(無学の白人労働者)、ホワイトトラッシュ(白いゴミ)と呼ぶ。でも、私にとって、彼らは隣人であり、友だちであり、家族である」

つまり、「アメリカの繁栄から取り残された白人」だ。

こうした人たちにプライドや希望を与えたのがトランプだったというのが有力な説だ。つまり、成長から取り残された白人労働者階級の怒りがトランプ氏を勝たせた原動力となった可能性がある。

一方、これを真っ向否定する分析もある。早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉さんはアゴラで”トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘“という記事を書いています。実際に、世論調査からクリントンとトランプの支持者を比較して、

所得についても冷静に見ていきましょう。3万ドル未満の層はヒラリー55%・トランプ31%、3~5万ドルの層はヒラリー46%・トランプ36%、5~7.5万ドルはヒラリー42%・トランプ42%、7.5万ドル以上はヒラリー43%・トランプ47%となっています。

つまり、「低所得者はヒラリー支持、高所得者はトランプ支持」は世論調査の数字から明確に確認できると言えるでしょう。

と分析しています。

うーむ、一方では白人労働者階級はトランプ支持、一方では、それはクリントン支持という真逆の分析がある。これをどう読み解いたら良いのでしょうか。その答えを探るべく、実際のCNNNew York Timesが出している世論調査を元に追って見ましょう。

事実関係を押さえるために、まずはクリントン・トランプを誰が支持していたのかを見てみると、

■若年層はクリントン、中高年層はトランプ

■白人はトランプ、有色人種はクリントン

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■低所得者層はクリントン、中高所得者層はトランプ

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■比較的学歴の低い人はトランプ、高学歴者はクリントン

■白人であれば、学歴が高くてもトランプ支持

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単純集計から以上のようなことが見えてきます。素直にこの結果を見ると、白人で高卒までの人ほどトランプに対する支持が強い。一方、所得で見れば低所得の人ほどクリントン支持が多い。ここから単純にトランプ支持者が「低学歴で低所得の白人ブルーカラー層」という理解は間違いだとわかります。この指摘はAuthoritarian Todayさんの”トランプ候補の支持者にまつわる5つの「神話」“でも以下のように指摘されていました。

ブルーカラー層がトランプの支持者のうち多くの部分を占めているのは事実だが、学位を有している共和党員の間でもトランプは確実に支持を広げている。すでに実施された6つの世論調査によれば、大卒の共和党員の間でもっとも人気があるのはトランプである。別の6つの世論調査でも、トランプはやはり大卒者に2番目に人気がある候補だ。大卒者がトランプを明確に拒んだのはオクラホマ州だけであった。トランプを支持しているのは今や低学歴者だけではないのだ。

ただし、低学歴者はトランプ支持者の中心であり続けているのは事実だ。既往の党員大会において、低学歴層はトランプを支持する確率が11%高いことが判明している。トランプはまだどの州でも過半数を獲得したことはないが、スーパー・チューズデーのマサチューセツ党員大会ではブルーカラー票の60%を獲得した。

誰がトランプに投票したのかについての分析はBLOGOSで、室橋祐貴さんが”【米大統領選】誰がトランプに投票したのか?“という記事で書かれているので、こちらも参考にしてください。

ただ、白人でも学歴の高い人はなぜトランプに投票したのだろう。こんな疑問が残ります。これを読み解くカギは共和党と民主党それぞれの支持基盤を見る必要がありそうです。ヒントはshibacowさんの”トランプはやはり貧困層に支持されて勝利したのではないか?“という記事。2012年の投票者属性を振り返っていますが、そもそも民主党(クリントン側)の支持基盤は低所得者層で、共和党(トランプ側)の支持基盤は比較的所得階層が高いことが分かる。

やはり「アメリカの繁栄から取り残された白人」が決め手の1つ

支持基盤を踏まえ、過去との選挙から支持層がどう変化したのかはNew York Timesの”How Trump Won the Election According to Exit Polls“がわかりやすい。

まず白人の支持の割合を学歴で見てみると、前回2012年の選挙の時と比べて、大学卒業の人の割合は低下し、学位を持っていない人の支持が大幅に伸びていることが分かる。

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一方、所得で見ると、実はトランプが低所得者に支持基盤を持つ民主党から大きく支持を奪い、一方で所得階層の高い人たちからの支持は軒並み前回よりも低くなっているという全く別の側面が見えてくる。

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地域でも面白い傾向が明らかになっている。NYTの”Donald Trump’s Victory Was Built on Unique Coalition of White Voters“を見てみるとわかりやすい。以下の地図は上がトランプが前回の共和党候補ロムニーに比べて支持を伸ばした地域(緑色が濃いほど支持が伸びている)で、下の地図が白人の割合が高い地域を色分けしたものです。見事に白人の割合が多い地域の支持を伸ばしていて、まさにメディアでも「ラストベルト(rust belt)」と呼ばれたオハイオ州やペンシルベニアを含む中西部地域の激戦区と重なる。ラスト(rust)は金属のさびのことで、使われなくなった工場や機械を表現し、脱工業化が進んでいる地域でもある。

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特にオハイオ州はこの地域を落とした候補者で大統領になった人はいないと言われる地域。このオハイオ州がトランプシフトに傾いていった実態についてはNIKKEI電子版の「激戦区にも浸透するトランプ氏 オハイオ州・製鉄所の街を歩く」が参考になる。

 ジュディさんのトランプ支持の理由は孫たちの将来だ。「街の仕事は中国やメキシコに行ってしまった。私たちの世代が歩んだ道は彼らの前には開けていない」。30年来の共和党支持者だが、トランプ氏には歴代の候補者以上に親しみを抱いている。「彼は労働者と同じ言葉でしゃべる。既存勢力にとらわれないトランプ氏ならば米国をスーパーパワーだった昔に戻してくれる」

これらの地域は単純にブルーカラー労働者だけではなく、経営層も数多くいる。所得階層も幅広い。東洋経済の”日本人が知らない「トランプ支持者」の正体“によると、

トランプ大統領の誕生は、無教養な低収入の白人労働者の怒り、疑念と絶望の発露ではない。保守的で勤勉な無名のアメリカ人がそれぞれに描いた自国と世界の未来への希望の表明の結果なのである。

と指摘されている。

ちなみに、トランプが勝利した要因のもう1つは支持層とは別に米国民の「飽き」と投票率の低さがあります。クリントンがオバマ大統領の有力な支持層である有色人種の支持をつなぎ止められなかった点も上記の出口調査の結果には表れています。FBIの不正調査報道もクリントンの信頼を失う要因になったと思われます。それでも数多くの失言があったトランプがクリントンよりも多くの支持を集めたのは、やはり現状に対する「変えたい」という思いの強さが大きかったのでしょう。

白人の危機感と移民国家の試練

結局、トランプが大統領に選ばれたのは米国の何を象徴するのか。ここからはあくまでもぼく個人の見立てですが、

  • マイノリティー化する白人の危機感
  • ポリティカルコレクトネスに対する嫌悪感
  • 変わらない米国に対するアンチエスタブリッシュへの不信感

この3つがトランプは大統領に選ばれた推進力になったのではないかと思う。1つめのマイノリティー化する白人については、トランプ支持層の明確な特徴に表れている。強いアメリカの復権や「メキシコとの国境に壁を作る」という発言は、これ以上移民に職を奪われたくない層からの支持を集めた。一部ヒスパニック系からのトランプ支持が伸びたとの記事もあったが、移民(特に貧しい層)は歴史的に社会の最下層に位置づけられる。パート職は増えても正規社員としての安定した職が増えない現状で、下層に多いとされるヒスパニック系が新たな移民に職を奪われると考えてもおかしくはない。つまり、新旧ヒスパニックの対立が起こると考えれば、ヒスパニック系がトランプ支持に動くのも理解できる。

話がそれましたが、移民の増加によってもはや白人は徐々にマイノリティーに追いやられている。特に成長産業と呼ばれるIT系のシリコンバレー企業で働く労働者は白人よりも優秀な海外からの留学生や移民が多い。この辺りの話を書き始めると、収集が付かなくなるので省略しますが、Annalee Saxenianの”Regional Advantage“を読むとこの辺りが詳しく書かれているので興味があればどうぞ。

ニューヨークでトランプ大統領に対するデモが起こったり、カリフォルニア州独立の話が登場するのも、米国の中でも移民が多くて自由主義な風土が影響していると思われます。逆に保守的な内陸部では圧倒的にトランプ支持が多い。

こうした流れとリンクするのがポリティカルコレクトネスへの嫌悪感です。ポリティカルコレクトネスとは政治的な正しさ、たとえば黒人をAfrican Americanと呼んだり、クリスマスを「メリークリスマス」ではなく「ハッピーホリデーズ」としてみたり。「差別をなくそう」という意識が行き過ぎて、アタマでは分かっているけれど窮屈さやストレスを感じていた人間の差別意識がトランプの自由奔放な率直な言い回しに「意見を代弁してくれる」と共感を呼んだのではないかと思います。

この辺りの話は以下をご参照。

逆にクリントンはオバマ大統領の路線を引き継ぎ外交的にも発言にも各方面への完璧な「配慮」があった。言っていることは「正しい」けれど、保守的な白人たちにとって自分たちの利益は二の次で「共感できない」と感じたのではないかと思われます。ゲイも許容するなど、社会の多様性の追求はアタマでは分かっていても、生理的に受け付けないなど一定の反発を持つ層がいるのは事実。その層の支持を集めたのがトランプだった。

トランプが上手だったのは、今の米国の現状に不満を抱えている層の受け皿になることができた点です。トランプが政治家ではなく実業家だったという点も「アンチエスタブリッシュへの不信感」を持っている層に響いたと思います。外交的には不安要素はあるものの、富裕層の法人税を減税するなどビジネスに対する政策の期待感は大きく、それはトランプ大統領が決まった後に連日ニューヨークの株価が史上最高値を更新したことにも表れています。(”トランプ勝利を株式市場はなぜ歓迎するのか“参照)

ただ、こうした白人の危機感を推進力で選ばれたトランプには、これまで築き上げてきた移民国家としての伝統に逆行するのではないかとの危うさもあります。WASP。いわゆる白人のアングロサクソンでキリスト教のプロテスタントが優位だった偉大なる米国の復権は再び差別や排他的な保護主義を招く可能性があるからです。これまでグローバル化を推し進めてきた世界の潮流は、トランプ大統領の誕生や英国のEU離脱によって新たな試練を迎えています。

その他参照

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