VWクライシスの震度

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ドイツの自動車メーカーの巨人、フォルクスワーゲンの排ガス規制に関する不正スキャンダルが世界経済に深刻な影を落としつつある。改めて自分なりに情報を整理してみたい。

■問題の概要

VWとアウディ部門のディーゼルエンジン車が米国の排気ガス規制に関する検査で不正を行い、通常走行時に基準の10〜40倍の有毒物質を排出していたことがわかった。9月18日に米環境保護局(EPA)が発表し、VWも不正を認めた。EPAはVWが米国で販売した48万2000台に対してリコール命令を出し、巨額の制裁金を課す方針。制裁金は1台あたり3万7500ドルとみられ、最大180億ドル(約2兆1600億円)にのぼるという。

不正の内容は、排ガス規制をクリアするために試験の時だけ燃費ではなく有毒物質の排出量を抑えるソフトを搭載していたというもの。こうした行為はディフィート(defeat)と呼ばれ、米国に限らず禁止された違法行為となっている。

■発覚の経緯

Yell!デザインさんの「VWのEPA排ガス試験ディフィートに関して」が素晴らしくまとまっているので、詳細はそちらを参照していただきたいのですが、簡単に書いておくと、

2014年5月   ウェストヴァージニア大学の検査で実走したときのNOx(窒素酸化物)が異様に多いことが判明→EPAに報告
   12月   VWがNOx排出量を抑えるリコールを実施
2015年5月   カリフォルニア州の環境局的なCARBとEPAが調査を実施。やっぱり実走だとNOxが多く排出されていることが判明
   7月以降  VWを聴取。ディフィートデバイスの存在を示唆
   9月18日  正式にVWが不正を認め、EPAが顛末を発表
   9月23日  マルティン・ヴィンターコーン社長が辞任
   9月25日  VW傘下の独ポルシェ社長であるマティアス・ミュラー氏がVW社長に就任

という流れ。不正の舞台裏についてはたぶん、ロイターの「焦点:独VWの不正告白、当局と繰り広げた長期攻防の舞台裏」がニュースソース。

■問題の背景と動機

色々とニュース記事が出ていますが、個人的に納得感が大きかったのは自動車評論家の国沢光宏さんが書いた「VWディーゼル不正の概要判明」という記事。

そもそもVWは米国の厳しい規制値をクリアできる技術を持っていたのに、なぜこんな不正に手を染めたの?というところがポイント。大きくは2つ考えられる。

(1) 耐久性への自信のなさ

(2) 米国市場での販売伸び悩みに対する焦り

国沢さんの記事では、このうちの(1)が明快に書かれている。その部分だけ引用すると、

アメリカの場合、新車時だけでなく約20万km走った時点でも(今はもっと伸びた)規制値をクリアしてないとならない。つまり性能保証しなければダメだとなっている。ここが難しい。

当時ホンダもアメリカでディーゼルを販売する計画を立てており、開発をすすめていた。けれど最後になって断念している。調べてみたら性能保証に自信を持てなかったそうな。なにしろ20万km走った後の性能をチェックするには、同じ距離を走らせなければならない。単純に100km/hで20万km走らせようとすれば、それだけで2000時間(83日間)掛かってしまう。

これに加えて、トヨタやゼネラルモーターズ(GM)などのライバルに対して、VWは米国市場で遅れを取っていたことが背景にあるようです。日経新聞の「VW不正、米拡販が端緒か 巨大市場不振で焦り」(9/25)によると、

米市場が回復する中、13年から前年割れとなる「一人負け」が続く。今年8月の米新車販売シェアは12年通年の3%から2%に低下した。08年にディーゼル車の排ガス試験で違法ソフトウエアに手を染め、深みにはまっていったのは販売不振への焦りが背景にあったとみられる。

電子版の記事には載っていませんでしたが、日欧米市場の乗用車販売に占めるディーゼル車割合は欧州1211万台のうち53.1%なのに対し、米国は1652万台のうちわずか1%。「VW縛った『世界一』」という記事にあるように、2008年に世界販売で18年までに1000万台を達成し、トヨタを抜くと表明していたVWにとって米国での苦戦に相当の焦りがあったことは想像に難しくない。

しかも輪をかけるように米政府は09年に排ガス基準を引き上げる環境規制「Tier2Bin5」を導入。欧州基準より4倍以上もNOxの排出量が厳しく制限されることになった。

そもそもディーゼルエンジン車は排ガス制限と燃費の向上という相反する機能を両立するのが難しい。日経ビジネスの「トヨタもVWの不正に抗議していた」によると、

 ディーゼル車において、燃費とNOx(窒素酸化物)は二律背反の関係にある。エンジンの燃焼効率を上げれば燃費が向上する一方で、空気中の窒素と酸素が反応し、NOxが発生しやすくなる。それを様々な技術を使って両立させようとしているが、どうしても二律背反の要素は残ってしまう。

ディーゼル車にとっては燃費の向上よりもNOxの処理の方が難しいらしい。そのNOx処理をするためにプラチナを使うなど工夫を凝らすわけですが、その処理機能を実装するとコストが高くなる。これについてはレスポンスの「【池原照雄の単眼複眼】VWショックで再認識…NOx後処理装置がないマツダのディーゼル技術」やlowlowlowさんの「マツダSKYACTIV-DとVWクリーンディーゼルの違いは?不正は大丈夫か?」などに書かれています。具体的に引用すると、

DE(ディーゼルエンジン)はガソリンエンジンよりも高圧縮状態で、軽油と空気の混合気を自然着火させて燃やす。燃焼室は高温、高圧になるため軽油と空気が十分に混ざる前に着火しやすく、これがNOxやススなどのPM(粒子状物資)を増やすこととなる。

「クリーンディーゼル」と呼ばれ、各国・地域の最先端の排ガス規制をクリアするDEでは通常、NOxの低減には触媒、あるいは排ガスと尿素水を反応させるなどの後処理を施している。(【池原照雄の単眼複眼】より)

従来のディーゼルだと排出ガスを長期間に渡って綺麗にし続けるためには高価な希少金属(プラチナ)などを使った排ガス後処理装置を取り付けなければならなかったのです。(lowlowlowさん)

こうした後処理の問題はコストに加え、やはり米国の規制で言えば冒頭に挙げた品質保証という点でも20万㎞は持たなかったりする。それを考えると、VWの苦悩が垣間見えます。米国法人は大変だったでしょうね。販売台数が思うように伸びず、技術的にも難しい部分を要求される。ちなみに、欧州ではどうだったか、といえば、欧州ではNOxの低減よりも関心は二酸化炭素の削減にあったようです。

EUがVWの不正を知りながら目をつぶっていたという報道もあります。日経新聞の「EU、2年前にVWの不正把握か 規制運用問われる」によると、

欧州連合(EU)が2013年の時点で、排ガス量を不正に操作するソフトウエアの問題を把握していたと欧州の複数のメディアが報じた。EUも以前から違法性を認識していながら厳しく追及していなかったことになり、EU側の責任も問われそうだ。

■不正の対象車

さて、VW不正の対象車はどれくらいあるのか。時事通信の「不正車内訳、徐々に判明」によると、

主力乗用車ブランド「VW」が500万台と半数弱。地域別では、ディーゼル車が普及する欧州が大部分となっているもようだ。同社の25日の発表によると、「VW」ブランドでは、第6世代の「ゴルフ」や第7世代「パサート」、第1世代の「ティグアン」などの車種が不正の対象。(中略)地域別では、欧州最大市場のドイツが280万台で、スイスは18万台。英紙デーリー・メール(電子版)は、英国では最大150万台がリコール(回収・無償修理)の対象になると報じている。

日経新聞の「VW、リコール含む行動計画を近く発表」によると、

VWブランド商用車が180万台、傘下のセアトが70万台に達する。すでにVWブランド乗用車が500万台、アウディが210万台、シュコダが120万台であることが分かっている。

■経済への影響度合い

徐々に影響は分析され始めていますが、瞬間風速的には日経新聞の「独VW、時価総額4兆円超失う 排ガス不正で株急落」に書いてあるように、株価が急落。

VW株は不正発覚前に比べて一時4割以上下落し、最大で330億ユーロ(約4兆4500億円)の株式時価総額を失った。24日時点の時価総額は約550億ユーロで、独同業大手ダイムラーに逆転を許し、BMWにも地位を脅かされている。足元ではVW株への売りは一服しているが、株価の先行き不透明感は強い。

ドイツの代表的な株価指数DAXも9月24日、9400台に下落して9カ月ぶりに年初来安値を更新しています。あまり信用できないニュースソースですが「名門VWの不祥事 損失額10兆円」という報道もあります。

とりあえず覚え書きのまとめでした。

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