Uberはキャズムを超えるか(2)

引き続き、Uber関連の話。なぜ日本では海外で人気の高い通常のタクシー配車サービスではなく、ハイヤー配車サービスからサービスインしたのか。続いてリリースしたタクシー配車サービスに勝機はあるのか。

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まず基礎情報として整理しておきたいのが日本のタクシー市場動向。詳細は国土交通省や全国ハイヤー・タクシー連合会のサイトを参照してもらうとして、必要最低限をおさえておく。

業界の動向をつかむ上で、有効なのが下記のグラフだ。国土交通省などの統計を見ると、国内タクシーの市場規模はおよそ1.7兆円。法人タクシーに限定すると、1.5兆円強になる。だいたいのトレンドをつかむ上で法人タクシーの統計を中心にレビューしてみると、市場規模はおおよそ右肩下がりとなっている。

タクシーの営業収入と台数

もう1つチェックしておくべき数字は車両数だ。だいたい21万台前後で推移してきた市場の車両台数が2001年の規制緩和で、比較的タクシーの保有台数を増やしやすくなったため右肩上がりになった。しかし、これに業界が反発。歩合制を敷くケースの多いタクシー業界において一日一車あたりの営業収入が下げ止まらず、市場が破壊されると訴えて09年に再び規制強化に至った。

●流しと配車の2つの市場

ここで理解しておかなくてはいけないのは、タクシー業界の特異性だ。タクシー市場は2つの異なる性質を持つ。

1つは東京都23区内のように「流し」の市場だ。流しは道路を走るタクシーを必要に応じて止まってもらい、乗車できる市場のこと。ここでのポイントは流しの場合、タクシー会社を選びにくい、という点。仮に好みのタクシー会社があったとして、自分の目の前を走る車がそのタクシー会社とは限らない。料金はあらかじめ許認可制で国が定めているので、料金での差別化はできない。タクシー会社には運転手の接客マナーなどしか工夫の余地は少ない。

そのため利用者も流しのタクシーを選別して乗車するという利用になりにくい。結果、優良なタクシー会社が競争力を持ちにくい。

もう1つは配車してもらう市場だ。主に地方が中心の市場だが、その地域で営業するタクシー会社に連絡して、自分の現在地まで配車してもらって乗車するタイプ。こちらであれば市場の論理が働きやすいというのがポイントだ。

さて、この市場の違いを踏まえると、Uberがなぜハイヤー配車サービスから日本市場に参入したのかが浮彫になる。日本での営業エリアである東京は流しの市場。新規参入の時に一気に何千台も抱える企業と契約できるわけもない。流しではわずか数十台であれば存在感を出しにくいし、利用客への浸透には時間がかかる。で、あればプレミアムでそもそもの利用形態が配車であるハイヤーの方がUberの利便性をアピールしやすい。そう考えれば、ハイヤー配車サービスから参入したのはごく自然な流れだと想像できる。

●Uberの強みは価格競争力と事前決済

今ではハイヤーだけでなく、タクシー配車サービスも始めているが、商機はあるのか。結論から言えば、現時点で日本で競争力を出すにはもう一歩ブレイクスルーが必要なのではないかと思われる。その理由を考えるにあたって、ここでUberの強みを海外市場の動向も踏まえて整理してみよう。

Uberはハイヤー配車、高級な車両を使ったタクシー配車、個人を含めた安価な「タクシー」配車の3つの配車サービスを展開している。実は海外ではこのうちの3番目となるタクシー配車サービスが主力。東京とは違って鉄道の交通網が発達していない国や地域ではタクシーの利用は配車してもらうのが一般的。そのとき、利用者が最重要視する価格だ。

その価格を従来のタクシーサービスと比較してみたのが、Business Insiderの”These Animated Charts Tell You Everything About Uber Prices In 21 Cities“だ。米国の21都市でUberと従来のタクシーの料金でかかる費用を見てみると、5マイルの走行距離では19都市でUberの方が安い。

同じく、別のブログ”What’s the Fare”の”It Pays to Compare“で見ても、サンフランシスコで97%、ニューヨークで85.8%、ロサンゼルスにおいては99.9%の確率でUberの方が安い。しかも、どれくらい安いかといえば、ロサンゼルスではわずかだが、サンフランシスコとニューヨークでは25%くらいお得な料金となっている。

Uberは価格競争力がある上、事前にスマホアプリでクレジットカードを登録して使う。しかも目的地までの料金があらかじめ利用者に通知されるために、ぼったくりのリスクも少ない。GPSで現在地を手軽に指定して降りるときはカードを提示する必要もない。こんなメリットがあれば、利用者が使わない手はない。その利便性が注目され、米国では瞬く間に広まった。

The Bridgeの記事によれば、

CEO Travis Kalanick氏によると、サンフランシスコにおけるUberの年間売上げは5億ドル。年間1.4億ドルだというサンフランシスコのタクシー市場自体を大幅に上回ってる。

もちろん、前回指摘したようにUberを利用するリスクはある。運転手が必ずしもプロフェッショナルなドライバーでなかったり、ドライバーの質をUberが担保するわけではないため、利用者が犯罪に巻き込まれてしまうケースが出てきているからだ。Uberにシェアを奪われてたまったもんじゃない既存のタクシー業界は当然、ここを批判する。

行政もタクシーは準公共サービスの位置づけで、利用者の安全を守る立場からUberを肯定はできず、むしろ安全を守る観点からUberのサービスを批判するところが多いようだ。

●稼働率上昇に寄与と設備投資負担の軽減

さて、話を日本に戻して、こうしたUberの強みを日本で生かせるか、といえば、競争力のポイントとなる価格は日本のルール内ではほぼ同じ水準になってしまう。流しの市場である東京では安いタクシー配車サービスの需要拡大は難しそう。と、考えれば、Uberのタクシー配車が東京で普及するにはハードルが高そう。

でも、実は商機がないわけではない。ブレイクスルーのヒントはタクシー会社の稼働率と設備投資にある。タクシー会社にとって売り上げを伸ばすには一車あたりの稼働率を上げるしかない。再規制で簡単には保有するタクシー台数を増やせないからだ。Uberはあくまで配車サービスという事業でタクシー事業ではないと主張しており、タクシー会社に稼働率を高めるお手伝いをします、と持ちかける。シェアを奪うのではなく、協力関係にあるんだ、と。

もう1つ、中小のタクシー会社にとって配車するシステム投資が浮くというメリットもある。中小のタクシー会社は連合を組んで無線設備を共同で利用して配車してもらっているケースが多い。ネット時代ではスマホのGPSを利用した配車の方が便利なのは当然だが、そうなると再びシステム投資に費用がかかる。その投資分をUberが担うのであれば、中小にとっては願ったり叶ったりだ。日本では大手よりも中小から徐々にUberと手を組むケースが増えてきている。

ただ、個人的にはむしろ、Uberのハイヤーではない、タクシー配車サービスの商機は東京ではなく、地方と旅行客にあるのではないかと思っている。また、日本のタクシー会社もUberの進出を、指くわえて見ているわけもない。その辺の状況を次回はまとめてみたい。

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